私はテルミナに居を構える富豪の家の長女である。
 ただ、何事もなく生活していれば、絶対に並以上の幸せは手に入れられる。そんな私がいったいどうしてアカシア龍騎士団に入り、たくさんの殿方の中で剣を振るっているかといえば、そこには私の尋常ならざる程の騎士への、アカシアの龍騎士団の四天王への憧れがあった。テルミナの街を守る、人々の平和を守る、弱き者を守る。何者にも屈しないその騎士としての姿勢に、幼かった私はとても憧れていた。

 無い力と周囲に絶対的に劣る生まれつきの身体能力を弊害とし、私は剣を握った。弊害など関係ない。私は騎士になる。私の憧れの、四天王の方々のように美しく、強い龍騎士に。
 昔から努力することだけは人並みにはできていた。まず蛇骨杯少年の部に臨み、参加賞を手に入れ、少しずつ、その数を増やし、質を上げていった。

 ちなみに、まだ四天王ではなかったカーシュ様やダリオ様も蛇骨杯には出場しており、その素晴らしい技量を幼いときから発揮されていた。ダリオ様は優勝、カーシュ様は準優勝。仲の良かったお2人はライバルとして、互いに互いを高められていたのだろう。
 私は亀のような歩みではあったものの、気持ちだけは誰にも負けずに少しずつ、少しずつ鍛錬を重ね、実力をつけていった。結果、今、身分こそないもののアカシアの龍騎士団にひとりの騎士として所属している。


 まだまだ私は新米だ。だからこそだろうか、部下への面倒見のよいカーシュ様が私に声をかけてくださったのは。
「おまえか。ついこないだ入団した奴ってのは――。」
「はい、名前を――」
「いや、名前はいい。とりあえず、」
 そう言ってカーシュ様は手合わせの際に使用する、殺傷能力の低い棒をひとつ、こちらに投げて遣した。
「手合わせだ。手加減無しでいくぞ。」
「へ?あ、あの、少しお待ちくださ」
 結果は言うまでもない。


 どうやらカーシュ様は、「ついこないだ入団した、身体も華奢で声も高くて振る舞いも大人しい騎士団兵を鍛えてやろうと思って」私にそのような真似を働いたらしい。
 「落ちこぼれ」チーフ2人の面倒を見ている程、四天王のひとりであるカーシュ様は面倒見が良い、との評判が下級兵の間ですらあった。本当にそうだった。
 私のような者に目をかけ、面倒を見て下さっているのだから。




 たとえ、遠慮無しに身体に触れられたり手合わせと言いつつ(この表現には御幣があるのかもしれないが、要するに)押し倒されたり大人数部屋といえども断りもなしに入って来られたりその他諸々男性同士でしか許されないようなことをされたって。
 私はきっと幸せ者なのだろう。

 きっと。


「いいかっ!今日は斧を使う訓練だ!」
「むむっ、無理です無茶です無謀でございますカーシュ様っ!非力な私にはそのようなものは…っ」
「問答無用!さあかかって来ーいッ!!」


 私はきっと幸せ者なのだろう。








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